乃木坂46の楽曲

  14th新センター深川麻衣は、仕切りに曲の良さに注目して欲しい旨を伝えています。自身を立てること無く、今回センターに選ばれたことで生じたマイナスの、またプラスのもやもやも全てこの”14枚目の楽曲”に還元する、「そういう意向を捉えて欲しい」、そう私は受け取りました。

乃木坂46は、
曲をきっかけにグループを知った、
曲を聴いて興味を持った、好きになったと
言ってくださるファンの方がとても多くて、
(2016/02/07 深川麻衣 14枚目シングル * 768歩)

  本人たちもこう語るように、乃木坂46の楽曲は良い、と多く言われているようです。
 私は他の”アイドルの”楽曲は全く聞きません。なのでそこでの比較はできません。また、乃木坂46はタイアップ等に寄せられた楽曲も多くありません。なので、私は「秋元康作品」を主観的に判断するしかありません。
 そこで、この乃木坂46の楽曲について、考察とはいかないまでも、少し文系的・理系的に考えてみました。
(後半で少し面白いことをしているので、乃木坂ファンの方はそこだけでも是非覗いてみてください)

文系的考え

 人の評価に関連する思考を噛み砕くと、大枠で以下のようになります。

 ・人は物事を評価する際、必ず「比較」を行います。
   日本語の評価に当たる形容詞・感情動詞が、基本的に比較によって使われるからです。
 ・比較対象は、大抵の場合、「代替案」もしくは「過去の経験」となります。
   例えば、”パンが好き”というのは「代替案」のご飯との比較によるものが大きいです。
   また、昔から”朝食がパンだった”などの「過去の経験」が考えられます。
   ”直感”というものも無意識的にこの「経験」との比較を行っている訳です。

 ・比較対象との比較は、客観的属性と主観的属性により行われます。
   客観的属性は「数値で判断できる指標」です。”パン”であればカロリーや価格となります。
   客観的属性は「代替案」と比較する際に最も大きな指標となります。

   主観的属性は「数値で判断できない指標」です。
   「過去の経験」はこれにあたり、他にはブランドによる好みもこれに当たります。

 ・人は最終的にこういった評価の積み重ねで意思決定をします。
   様々な要因に対する評価の積み重ねが基準を超える・超えない、により人は意思決定をします。
   評価項目は大枠で見れば画一になりますが、その度合は人それぞれで、最終基準も人それぞれです。

   いくら乃木坂が好きでも、”握手会に行く欲”より”かかる費用”に重きを置き、「握手券を買わない意思決定」をする人もいます(=基準が高い)。
   一方、同じ重きを置きつつも「握手券を買ってしまう意思決定」をする人もいます(=基準が低い)。


 では、”楽曲”に対して人はどう評価を行うでしょうか。

 楽曲に関しては、客観的属性の対する評価は小さそうです。曲の時間的長さや音域、周波数、テンポなど、聞くのに大して気にしない要因も多く、そもそも「長ければ・高ければ良い」という評価軸が一定でないので、これらも限りなく主観的になりそうです。
 
 つまり、殆どが主観的属性に依るわけです。主な評価要因は大きく分けると以下の項目でしょう。「ヒット曲になったから」などの経過変化を考えると更に膨らむので考えません。

 (1)詞:ストーリー・メッセージ性、持ち寄られる単語
 (2)曲:曲調、テンポ
 (3)楽曲に関連するもの:MVの存在やライブ、これらにおけるダンスによる付加
 (4)タイトル:キャッチーさ
 (5)歌っているメンバー:グループアーティスト固有

 (1)(2)に関しては、大衆に受け入れられやすい詞や曲はあるでしょうが、評価は完全に主観的です。また、これらは無いと成り立たない構成要素なので、最も大きな評価要因になります。
 言ってしまえば当たり前なことですが、だからこそ楽曲の好みは千差万別なわけです。

 (3)に関してのみ、私は「付加価値」と考えます。これらに何らかの思い入れがあればあるほど、積み重なるものとなるため、マジョリティが確立される楽曲はこれに依るところが大きいと考えられます。AKB48のおにぎり握るやつとかそうでしたね。
 乃木坂46は、MVのクオリティは確かに高いと思います。ただ、素のビジュアルが高いことも相まっている感も否めません。
 ダンスに目を見張ったのは、私はやはり『制服のマネキン』と『命は美しい』です。ただ曲単位でなく集団で見た時、目を見張るものでもない気はします。
 ライブで得られる付加は人それぞれですが、こちらも集団で見た時は目を見張るものでもない気がします。

 (4)に関して、タイトルで毛嫌いする人って実際いると思います。タイトルは多くの場合、詞中にも出現します。そのため、毛嫌いされてしまうタイトルであるなら、必然的に詞の評価も下げてしまいます。
 所謂、毛嫌いされるタイトルを付けなくなった、もとより多くはないというのも、乃木坂46の楽曲が評価されている要因であるかもしれません。
 ただ、AKB48が一般大衆に大ヒットした曲って、キャッチーなタイトルで、そのタイトルをサビ頭・サビ終わりでポンと歌っている曲が多かったと記憶しています。それを考えるとなんとも答えの出ないジレンマである気もします。


 (5)に関しては、そもそも歌ってる人、あのパートを歌ってる人、主旋律を歌ってる人などなど、歌手に紐付く要因です。歌手に紐付くため、「楽曲の良さ」に直結するとは言い切れませんが、その上でも重要な要因であるとは思います。
 これは経過変化の話になるので割愛しますが、『君の名は希望』は元からの詞曲の良さもありますが、まさにこれです。

 結論として、乃木坂46は、(1・2)大衆が受け入れやすい曲が多い、(3)(素のビジュアルが良いため)MVが良い、”アンダー”という括りのライブの存在、(4)キャッチーでないタイトル、(5)頻繁?なセンター・フロントの入れ替え、が良い曲が多いと言われる所以かもしれません。
(もちろん断定はできません。アンケートなんか取れれば統計的に検証できるんですがね。)

 ちなみに、
乃木坂46×週刊プレイボーイ2015 | 本 | Amazon.co.jp
の中でメンバーが選ぶ楽曲総選挙という特集があります。ファン目線とは少し勝手が違いますが、1位『気づいたら片想い』、2位『あの日 僕は咄嗟に嘘をついた』、3位『制服のマネキン』という結果となっています。

『気づいたら片想い』には、初選抜メンバー以外に桜井・深川・若月が挙げ、20歳近辺の女性に受け入れられる詞曲である
『あの日 僕は咄嗟に嘘をついた』には、伊藤万・永島・能條が挙げ、演じる側としてアンダーライブを思いだす曲である
『制服のマネキン』は、生駒・星野に加え、2期生の伊藤純・寺田が「乃木坂を知った」曲であることが掲載されています。

 補足ともなりますが、データとして、乃木坂46全メンバーの楽曲参加数を掲載します。(深川ブログでは全87楽曲とありましたが、『指望遠鏡』がアニメ版では選抜メンバーが異なるため全88楽曲となっています)

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理系的考え

 上でもちらっと述べた通り、上述の内容はアンケートを幾らか取れば統計分析で簡単に数値的にわかったりもします。しかしそんなことは容易にはできません。では楽曲に関する簡易的なデータはないか。ありました。それは「歌詞」です。

 今回は、乃木坂46の楽曲の「歌詞」を用いることで、楽曲の類似性や特徴を明らかにしてみたいと思います。すなわち、詞に関する評価基準のみに関して、類似性や特異性を測ることで、何らかの示唆になるかもしれません。
 実際の分析結果は、少し考えれば当然くらいの結果ではありますが、そんなこともできるのかといった楽しみ方をして頂ければ幸いです。あまり深くも説明しないので、気になった方だけ、図をジロジロ見て頂けたらと思います。

 この度用いた分析手法は、テキストマイニングといいます。簡単に言えば、文章中の単語に対して統計的な分析を当てはめる手法です。
 実は、Twitterで連動されている診断等の類の多くはこの技術を用いたものです。また、詳しくはわかりませんが、TwitterのトレンドやYahoo!のリアルタイム検索タブ内の技術も、この技術が用いられたものだと思います。

 「表題曲13楽曲」の歌詞に対して分析を行った結果がこちらになります。

 

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(図の意味は脚注)*1

 結果から分かることを簡単に羅列します。

  • 表題曲13曲のうち『ぐるぐるカーテン』と『制服のマネキン』が最も特徴を成す対象関係、次いで上記2曲と『命は美しい』
  • 最も意味合いの強い分類となる横軸(左右の関係)は「人称の示し方」
    右:「君と僕」相対関係ながら対象をぼかす
    左:「私」「彼」「彼女」「女の子」対象も性別も明確
  • 縦軸の分類は「曲のテーマ」
    上:「自由」「始める」「未来」テーマは鼓舞や応援
    下:「恋」「好き」「あなた」テーマは恋
    (上下中央に位置する『君の名は希望』と『ガールズルール』はどちらの意も含むということになる)
  • 最も特徴的な楽曲は『制服のマネキン』(位置は近いですが『バレッタ』とは直接類似していない)、示す特徴は「制服」「大人」(図右下領域)
  • 次いで『ぐるぐるカーテン』、類似した楽曲は『ガールズルール』、示す特徴は「私」「女の子」(図左下領域)
  • 次いで『命は美しい』、類似した楽曲は『何度目の青空か?』『太陽ノック』『夏のFree&Easy』、示す特徴は「自由」「未来」「始める」「空」「次」「夏」(図上領域)
  • 残り6楽曲(図中央下領域)のうち『気づいたら片想い』のみ「あなた」という人称を使用しているためやや特異、残りの5楽曲の示す特徴は「君と僕」(加えて「恋」)

 「君と僕」という表現は恐らく作詞家秋元康のスタイルなんでしょう。出現する曲には膨大に出現するため、この2語は出現頻度が著しく多いです。これは隠喩表現であるため、聞き手に共感や想像を与えやすく、そこに2つのテーマを同時に上手く練り込んだ『君の名は希望』という曲はやはり名曲である、と解釈させるような結果なのかも知れない、と1つだけ述べておきます。

 それぞれの曲に対する結果の所感は述べるとキリがないのでこれまでとしますが、 このように、詞の中に紛れる言葉に着目するだけで、曲同士の相対関係や特徴がハッキリ見えるようになります。そんなことせずとも聞いてりゃわかるよ、と言われればそれまでなのですが、類似性や特異性を定量的(数値的)に可視化が容易にできることがこの技術の特徴なので、こういうこともできるのかと面白がって頂けたら幸いです。

 これを期に、皆さんが好きになった楽曲が”何故好きなのか”、振り返ってみては如何かでしょうか。
 何にせよ、以前のブログから述べている”勝負曲になる年始曲”が、少しでも多くの人に良いと評価されるような楽曲になることを期待しています。
 余談ですが、私はファンになりカップリング曲を探っている際、初めて『私のために 誰かのために』を聞いた時、アイドルでもこんな曲歌えるのかと身震いしました。

 #ちなみに、全楽曲の歌詞に対し分析を行うとこうなります。
(軸の意味合いは縦横共に変わりませんが、横軸(左右)が先ほどとは反転しています)

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*1: 2つの軸が組み合わされた図です。2つの軸(横軸・縦軸)は別の意味合いを持ち、今回は横軸が最も意味合いが強い軸となります。
 青い丸が単語の位置付けであり、その大きさが出現頻度になります。特徴的な単語ほど軸の端によります。軸の対象関係は意味の対象関係を示しているわけではありません。類似した使われ方をしている単語は近くに位置付けられます。
 赤い四角(赤い字)は文章のまとまりです(今回は楽曲の歌詞ごとにまとめているので楽曲名になります)。文章の位置付けは、位置付けられた単語に類似するほど近くに位置付けられます。すなわち、楽曲名の近くに位置付く単語が、その楽曲の特徴となる言葉となります。